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東京高等裁判所 昭和49年(行タ)11号 決定

申立人 中島徹

主文

本件申立を却下する。

理由

申立人は「本件申立を許可する。」旨の裁判を求め、その申立理由の要旨として、次のとおり述べた。

一  現在、当裁判所には、国立市の住民である松岡きく外一三名を第一審原告とし、もと同市長であつた田島守保(訴訟承継人田島暁)外二名を第一審被告とする昭和四七年(行コ)第六号、第八号住民訴訟損害賠償請求各控訴事件(以下、本件訴訟という)が係属しているが、申立人は国立市の住民であつて、次のような理由に基き、右訴訟の結果により権利を害される第三者である。即ち、

1、本件訴訟の結果、もし第一被告ら敗訴の判決が確定すれば、国立市は同判決に基き右被告らに対し賠償金の支払を求め、右支払がない場合は強制執行をすることになるが、かくしては国立市に長年にわたり偉大な貢献をした第一審被告らから何らの理由もなく国立市が大金を取り上げる結果となり、きわめて不当であるから、同市住民の大多数はこれに対し、右請求ないし強制執行阻止のため大規模な市民運動を展開することが必至であり、他方これに対し第一審原告ら一派の住民は逆に右請求ないし強制執行の実施を求める反対の市民運動を展開することも当然に予想され、その結果は一派の住民の激烈なる対立抗争の戦場と化するところ、申立人を含む国立市住民の大多数は、国立市が文教地区であることを唯一の誇りとし、この地を永住の地と定めて、同市において文化的且つ平和的な人生を送るべくこいねがつているものであるから、本件訴訟の結果、前記のような対立抗争が惹起されれば、申立人が国立市において文化的且つ平和的な生活を営む権利は甚だしく害されることとなる。

2、又、本件訴訟において第一審原告らが勝訴をすれば、右原告らは、同人らが訴訟委任をした弁護士に支払うべき報酬について、地方自治法第二四二条の二第七項に基き、国立市に対し、右報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払を請求することができるから、当然右請求をするものと考えられるところ、第一東京弁護士会弁護士報酬規定によれば、裁判上の事件は審級毎に一事件として報酬を定め、又訴額が金一、〇〇〇万円以上金五、〇〇〇万円以下の場合は六分ないし一割の手数料及びこれと同額の謝金を請求することができることゝなつているので、右基準を本件に適用すると、第一ないし第三審を通じ弁護士に支払うべき手数料及び報酬の合算額に訴額の六割に当る約一、〇〇〇万円の多額に達する。ところで、第一審原告らの請求により国立市が支払うべき右弁護士報酬は、勿論、申立人を含む国立市住民の税金によつて賄われるものであるから、この点においてもまた、申立人の権利は本件訴訟の結果により害されるものである。

二  よつて、申立人は行政事件訴訟法第二二条に基き、前記第一審被告らを補助するため、本件訴訟参加の申立に及んだ。

尚、申立人は、第一審原告ら代理人の本件参加申立に対する異議について、申立人は本件訴訟の第一二回口頭弁論期日に出頭していたのに、右原告ら代理人は同期日において本件参加申立につき何ら異議を述べなかつたから、民事訴訟法第六七条により、右異議権を喪失したものであると陳述した。

よつて按ずるに、行政事件訴訟法(以下行訴法と略称する)第二二条(同条を準用する第三八条)において広く抗告訴訟につき第三者の訴訟参加を認めたのは、行政庁の処分ないし裁決の取消又は無効確認等を求める抗告訴訟では、その訴訟の結果につき直接自己の権利関係に影響を受けるいわば実質的当事者ともみるべき者が必しも訴訟の当事者となつていない場合が多く、しかも処分又は裁決を取り消す判決は形成力を有し、第三者に対しても効力を持つ(行訴法第三二条)のであるから、このような第三者を訴訟に参加させて攻撃防禦の機会を与え、もつて裁判の適正を期するとともに右第三者を保護しようとする趣意に基くものである。したがつて同条により訴訟参加ができるものは当該訴訟の当事者以外の第三者で、判決の形成力を受けるためその主文によつて直接自己の権利を侵害されるものに限定されることになる(同法第二二条第一項)。そして同法第四三条において民衆訴訟(行訴法第五条)機関訴訟(同法第六条)については、これを(一)処分又は裁決の取消を求めるもの、(二)処分又は裁決の無効確認を求めるもの、(三)右以外のもの、に分類し、抗告訴訟と同類型の右(一)及び(二)の場合にのみ訴訟参加に関する同法第二二条の規定を準用するものとしている。これを地方自治法第二四二条の二の訴(住民訴訟)についてみるに、同条はこの訴による請求を同条第一項に定める一号ないし四号に限定し、かつその訴訟手続については同法自体に定めるものゝほか行訴法第四三条の規定の適用を認めている。しかして前示行訴法第四三条の定める分類に従えば、同条により訴訟参加に関する同法第二二条の適用があるものは地方自治法第二四二条の二第一項二号の「行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認」の請求を内容とするものに限られ、その他の請求を内容とする訴についてはその適用のないことが明らかである。(同条第四項において別訴の提起を禁止していることは、前示二号以外の訴についても既に提起されている原告以外の住民が右訴訟に原告として参加しうるか否かを判断する一資料とはなし得ても、被告側のそれを判断する資料とはならず、特に四号の請求を内容とする訴は本来普通地方公共団体が実体法上有する請求権を住民がこれに代位して当該職員又は当該行為又は怠る事実にかゝる相手方を被告として提起する訴であつて、他の各号の訴とはその性格を異にするのであるから、前示立法趣旨に基く行訴法第二二条を適用する必要性に乏しい)。そうすると、本件訴は同法第二四二条の二第一項四号に基き、住民たる第一審原告らが、第一審被告らに対し損害賠償の請求をなすものであるから、上叙の理由により行訴法第二二条の適用がなく、従つて同条に基くものとする本件参加の申立は不適法として排斥を免れない。

もつとも、地方自治法第二四二条の二に定める訴については民事訴訟法の適用を排除するものではない(行訴法第七条)から同条第一項二号以外の訴についても、民事訴訟法の参加に関する規定の要件に適合するかぎり第三者の訴訟参加は可能である。すなわち、右訴は住民が、自己の法律上の利益にかゝわらない住民たる資格において提起するものであり、前示のように別訴が禁止されていることからみても、当該訴訟の当事者(原告)となつていない住民は右訴の原告適格(監査請求・出訴期間の遵守等)を有するか否かにより民事訴訟法第七五条又は第六四条により原告側に参加することが容易に許されるものと解することができる。しかし、被告側に参加する場合は右と異り同法第六四条の要件を具備する場合においてのみ、補助参加が許されるものと解しなければならない。

本件申立が民事訴訟法第六四条により第一審被告らに補助参加する趣旨を包含するものと解しても、同条にいう「訴訟の結果につき利害関係を有する第三者」とは判決の結論(訴訟物に関する判決主文による判断)につき法律上利害関係を有する第三者を指すのであつて、申立人が本件参加申出の理由として主張する各事由は、一般住民としての感情的関係ないし経済的関係に止まり、同条にいう判決の結果につき、法律上利害関係を有する場合には該らないから本件参加の申立は不適法というのほかはない。

なお本件訴訟の第一二回口頭弁論調書によれば、申立人は同期日に出頭していたにもかゝわらず、第一審原告ら代理人は同期日において申立人の参加申出につき何ら異議を述べていないことが認められるが、他面同調書及び第一三回口頭弁論調書によれば、右第一二回口頭弁論期日においてはたゞ裁判所の和解勧告が打切られただけで、当事者双方は弁論をなすことなく退廷し、第一三回口頭弁論期日に至り申立人が本件訴訟参加の申立をするに及びはじめて第一審原告ら代理人が右参加に異議ある旨の陳述をしたものであることが明らかであるから、右原告らはいまだ異議権を喪失したものとは認められず、従つてこの点に関する申立人の主張は採用できない。

よつて申立人の本件参加申立を却下することとして主文のとおり決定する。

(裁判官 杉山孝 古川純一 岩佐善己)

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